ビルの建て替え実務はこうする
所有しているビルを建て替えると決心した方へ、
具体的な建て替えへ向けての実務をどう進めるかを説明していきましょう。
ビルの建て替えの大まかなスケジュール
【10年~5年前】
全テナントを定期借家契約に切り替える
【2年前】建設業者を選定
【1年前】銀行に融資を打診
【6ヵ月前】不動産屋に入居者募集の相談
【着工】
立ち退き交渉を回避するために
特にテナントビルの場合は、馬鹿正直に立ち退き交渉を面と向かってしてしまうと、物凄い金額の立退料を請求されることがよくあります。
繁華街にあるビルの場合、10坪強のお店に退去してもらうのに1億円も立退料がかかったなんて話も聞きます。
複数のテナントが入っているビルの立ち退き交渉を進めていくと最後に残ったテナントに退去してもらわないと家賃もほとんど入らず固定資産税だけ払い続けて建て替えもできない状態に陥ってしまい、大家側も金銭的にかなり苦しくなります。
このような状態になってしまうと、高額な立退料を提示するか、その物件を売却するかの2択になってしまいます。当然売却するにしても、相場よりも安くなってしまうでしょう。
立ち退き交渉をしようとすると、最後の1軒は、オーナーの足元を見ますから、どうしても、こうゆう状況に陥りやすいのです。
こんな最悪な事態にならないように、
すべてのテナントの賃貸契約を定期借家契約に変更しておくことが、建て替えに向けての準備として非常に重要なことになります。
定期借家契約への変更の実務
よほどの一等地でない限り、普通は普通借家契約で賃貸借契約を結んでいると思います。
それを期限の定めのある、テナントにとっては不利な定期借家契約に変更するのは、そのまま頼んでもなかなかテナント側も首を縦には振ってくれないでしょう。
では、どうするか。
仲介業者に交渉代理を依頼してしまいましょう
まだ、建て替えたいと思う年までに5年以上の期間があるのでしたら、
まずは普段お世話になっている仲介業者にお願いして定期借家契約への変更をテナントへ打診をしてもらうのがよいでしょう。
少なくともオーナーよりも定期借家契約へ変更した経験もあるでしょうし、オーナーとテナントというずばり当事者同士よりも一歩引いた立場の仲介業者のほうが、冷静にまた粘り強く交渉できるので、やや時間はかかるものの、この方法ですんなり契約変更に応じるテナントも少なくありません。
もちろん、テナントにとっては不利な契約に変更することになるわけですから、家賃を1割ほど下げるとか、預かっている保証金の一部を特別に返却するなど、テナントにとってなんらかの利益になるオファーも必要となるでしょう。
どのくらい条件面で譲歩すればいいかは、地域によって様々でしょうから、仲介業者と相談して決めるのがよい方法です。
それでも定期借家契約への変更を拒否し続けられたら
ただ、中にはかたくなに契約変更を拒み続けるテナントもいるでしょうから、そのようなテナントに対しては、オーナー、仲介業者、テナントの3人で条件をすり合わせていく必要があります。
ただ、このとき、こちらからのお願いを拒否し続けられてオーナーが熱くなりすぎてしまうこともままありますので、3者が同席するのでなくて、
仲介業者とテナントが会って、テナント側の希望をおおよそ聞いてきてもらい、
↓ ↑
仲介業者とオーナーが会って、その条件でいけるかどうかを検討し、その答えをテナントに持っていく。
これを合意するまで繰り返すというのも、一見手間がかかるように見えますが、変に感情的になることなく話を進められるので、3人同時に会うよりもスムーズなことが多いです。
条件面の妥協はどこまで認めるか
これには僕の中には、明確な基準があります。
家賃減額巾×定借の賃貸借期間(月数)< 近隣の立退料
家賃減額は、ともすれば新たに結ぶ定期賃貸借契約の契約期間をかけて、立退料をお支払いするようなものです。
ただし、すぐに退去してもらうのではなく3~5年先のことになる訳なので、当然、今すぐ退去してもらうためにお支払いする立退料よりも少なくなる必要があります。
定期借家契約へ変更後の注意点
努力の甲斐があり定期借家契約に変更できたとしても、まだ油断は禁物です。
複数のテナントが入っているビルの場合、すべてのテナントの契約を、ほぼ同時期に定期借家契約にひき直すことは困難です。
バラバラと時期をずらしながら定期借家契約に変更して行くことになるでしょう。
すると、最後のテナントを定期借家契約に変更してその契約期間が満了するまでに、先に定期借家契約に変更したテナントの契約期間が満了を迎えることになると思いますが、ここで注意が必要です。
実は、苦労して定期借家契約に変更したとしても、
以下の条件を満たさないと、最悪の場合また元の普通借家契約に戻ってしまうことがあるのです。
その条件とは、
・期間満了の1年前~6ヶ月前までの間に
・貸主のほうから
・「◯年◯月◯日に契約終了」と通知する
そんな大事なことは、忘れないよ!と思うかもしれませんが、
一般的な定期借家契約の契約期間は3~5年ですので、1つの手帳に書いておくことも難しく、仲介してくれた不動産業者も教えてくれないことも多いので、意外と忘れやすいので注意してください。
対策として僕がやっているのは、
手帳の12月1日の欄に、
「新しい手帳を買って、◯年◯月に終了通知を出すことを転記」と書いて、手帳を新しくするたびに新しい手帳に書き写しています。
こうすることで、その都度記憶にも刻まれるので、忘れにくくなる効果もあります。
すべてのテナントの契約を定期借家契約に変更することができたところから、建て替えに向けての具体的な準備をはじめましょう。
建て替えに有利な時期はあるか
建て替えに有利な時期というのは、あります!
1月2日以降のなるべく早い時期に着工して、年内に完成するのが理想です。
これは、どういうことかというと、
年間の固定資産税の税額は、1月1日の状況によって決定されます。
1月1日に建築中だと、なんと更地扱いになってしまうのです。
東京23区の場合でいうと、
更地の固定資産税は、
商業ビルが建っているときより、約2割高くなります。
マンションなどの住居系建物が建っているときよりなんと6倍も高くなります!
都心で建物が建設中のまま1月1日を迎えることは、こんなにも税負担が多くなってしまうのです。
固定資産税は高いのに、家賃は入らないし、建築費はかかるという最悪の1年になってしまいます。
ということで、古いビルを1月1日を越えるまでそのままにして、1月2日以降に解体、建築を始めるのがベストなタイミングです。
そして、年内に新しいビルを完成させるのです。
1月1日に、古くても新しくても建物が建っていることが大事なんです。
どうしても1月1日に建物の完成が間に合わない場合
そうは言っても、テナントとの契約期間など様々な事情で、1月1日に建物の完成が間に合わない場合でもあきらめないでください。
事前に、都税事務所に申請すれば、建築中でも更地でなく解体前の状況として評価してもらえるケースもあります。
条件はいくつかありましたが、そんなに無茶な条件ではなく、多くの人に適用できる条件でしたので、詳しくは、都税事務所に確認してみてください。
ビル建て替え費用の見積もり
ビルの建て替え費用については、ビルのグレードや、工事発注の状況、工事しやすい立地かどうかなどで大きく変わりますので、一概に言えませんが、鉄筋コンクリートの建設費の目安としては、
高くても坪100万円くらいに抑えたいところです。
この単価に、建坪、つまり総床面積にかけたものが、建築費になります。
地下のない3階建てのビルで各フロアの床面積が15坪なら、単純に計算して総床面積は45坪になります。
この場合の建設費は、
総床面積45坪 × 100万円/坪 = 4500万円 と試算できます。
ただし、坪100万円はかなり高目の想定単価です。
調整できる要因は調整して、もっと安く作れれば、新築後の運営も楽になります。
以下に、建築費の変動要因の詳細を挙げますので、オーナー側で調整できるか考えてみてください。
建築費用の変動要因
発注する時期による変動
結構、大きい変動要因の1つに、発注する時期があります。
オリンピック前や大規模な自然災害後は、建設費用が高くなる傾向があります。
特に、オリンピックの開催が決まると、競技場や選手村のようなスポーツ関連施設の新築に留まらず、外国からのお客さんに向けて、多くのホテルの再建築が進んだり、首都高の大規模改修や新しい路線の新設まで行われたりします。
このような莫大な建設需要がある時期ですと、職人も資材も不足気味となりどんどん単価が上がってしまいます。
オリンピック前というのは、建築費でみると最悪です。
少しずらしたほうが賢明でしょう。
最近では、ずらす人も多いので、オリンピック後もしばらくは建築費が高止まりするケースもあります。
ビルのグレードによる変動
ビルのグレードについては、オフィスビルでは競争要因になると思いますが、テナントビルの場合はスケルトン貸し、つまりコンクリート打ちっぱなし、もしくは石膏ボードを貼った状態で貸して、内装はテナントが作るというのが一般的ですので、ビルのグレードという概念があまりありません。
あまり華美につくると建物の固定資産税が高く評価されてしまうので、耐震性だけはしっかりとしたものにすれば、豪華な建物にする必要はないでしょう。
工事のし易さによる変動
地方の広々とした敷地にビルを建てる場合と、人通りがひっきりなしで、工事できる時間帯も限られてしまう繁華街にビルを建てる場合では、当然建築費に差がでてきます。
どのくらいの差になるかは、立地ごとに変わりますので、一概に言えませんが、繁華街での建築は割高になることは、想定しておきましょう。
建築費以外に必要となる費用
ビル建て替えは建築費を工面するだけでは片手落ちです。
以下のような出費があることも念頭において建て替えを進める必要があります。
保証金の返還
まず、大きいのは、保証金の返還です。
商業テナントの場合、今でも家賃10ヵ月分くらいの保証金を預かっていると思います。
テナントの入れ替えのときは、保証金を返しても、次のテナントから新たな保証金が差し入れられるので問題ないですが、
建て替えの際には、一度、全テナントに退去してもらうので、保証金を返さなければなりません。
この金額が結構大きな数字になると思います。
預かっていた分を返すだけですが、一度、口座にいれたものが数千万円単位で出ていくのは、なかなかキツイものがあります。
取り壊しの費用
それと、意外と高いのが、取り壊しの費用です。
都心の繁華街などは、思いのほか高額になるケースも多いので、早めに見積もりをとっておいたほうがよいでしょう。
取り壊しの費用はバラつきが大きいので、ビル建設を依頼する建設会社だけに任せないで、何社かの解体業者にオーナー自ら相見積もりを取ったほうがよいでしょう。
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まだ、具体的に決まっていなくて、とりあえず料金を知りたいなら、こちらがよいでしょう。
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どちらも無料サービスですし、契約を迫られるものではありませんので、計画が具体化する前でも利用できます。
建て替えまでの生活費
物件をいくつも分散して持たれている場合は問題ないですが、1つ物件の収益が飛びぬけていて、その物件を建て替えるときは、1年分ほどの生活費を別途用意しておく必要があります。
おおよその建築費の調べ方
これは、もう複数の建設会社におおよその見積もりを作ってもらうしかありません。
このとき設計事務所に頼むと、図面を引くだけで50万円前後もかかってしまうこともあるので、建設会社のほうがよいでしょう。
今の時点では、条例などを調べて細かく見積もってもらわなくても、
今と同じくらいの建物を作ったときのおおよその見積もりをいただけますか というくらいのアバウトなスタンスで聞かれるとよいでしょう。
この時、営業上手な建設会社だと家賃収入のシミュレーションもしてくれたりしますが、だいたい甘々のシミュレーションになっていることが、ほとんどです。
新しいビルなら家賃がこんなに上がりますという建設会社のシミュレーションは、彼らの立場からのポジショントークですので、くれぐれも鵜呑みにされないようにしてください。
テナントビルの場合、内装はテナントが行うことが普通ですので、ビル自体の新しさは、あまり競争力アップには影響しません。
建て替えたからといって、劇的に家賃が上がると期待しすぎないほうがいいです。
それよりも、まさかの災害のときに倒壊しないための建て替えと考えたほうがよいです。
収入の見積もりは厳しめにしておくのが大事です。
建設会社の探し方
肝心の建設会社の探し方ですが、
建築費の見積もりを取るだけとはいえ、どの会社に聞けばいいかは悩むところです。
何社かに聞いて回ることになりますが、こんな探し方がよいと思いますので紹介しましょう。
普段、お世話になっている不動産屋に聞く
不動産屋は、建設会社と親しいことが多いです。
まずは、お世話になっている不動産屋さんに聞いてみましょう。
ただ不動産屋と親しい業者は、内装などの小規模な修繕が得意な業者であることが多いので、ビル1棟の建て替えとなると、実績があまりないこともあり得ます。あくまでも候補の一つとして考えておくべきです。
融資などを頼んでいる銀行や信金に聞く
銀行や信金も地元の建設会社に詳しいので、お世話になっている銀行や信金があれば、聞いてみましょう。
銀行にとっては、お客様である建設会社は潤うし、あなたから土地を担保とした借り入れもしてもらえる可能性が高いわけですから、喜んで教えてくれることでしょう。
複数の大手建設会社に聞く
上に挙げた2つの方法ですと、どちらかというと地元密着の中小の建設会社を紹介してくれる傾向にあります。
建て替えを検討するときは、大手の建設会社の話もぜひ聞いておくべきです。
中小にはない、より収益を上げる建築プランを提案してくれることもありますので、大手建設会社も外せません。
ただ、自分の経験ですが、どこからの紹介もなく、いきなり大手建設会社に電話してビルの建て替えを相談をしたいといっても「は?」って感じで相手にされなかったこともありました。
住宅展示場などに行けば、一通りの話はしてくれますが、中にはヤル気のない失礼な担当者もいるので、そんな人に当たるとこちらのやる気っも失せてしまいます。特に平日は、ヤル気のない担当との遭遇確率が高い気がします。
大手建設会社への依頼は、一見さんの飛び込みというのはほぼ無く、どこかしらを通した紹介のほうがよいようです。
「そんなこと言っても、大手建設会社を紹介してくれそうな知り合いなんていないよ」という人がほとんどでしょう。
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例えば、銀行から紹介された建設会社の見積もりがやや高くても、お断りしてしまうと融資が通りにくくなってしまうのではないか、とか、
不動産屋から紹介された建設会社を断ると、テナント付けのときに手を抜かれないかなど余計な心配をしてしまう人も多いと思います。
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