古アパートや商業ビルの建て替えが難しい本当の理由
ニュー新橋ビルや新宿紀伊国屋などの昭和の名ビルの多くが、震度6強で倒壊の危険性ありと報道されました(2018.3.30)。
その数なんと都内で251棟!
都内の大規模な商業ビルやマンション852棟の耐震診断の結果ですから、約3割にあたります。かなりの割合です。
国や都は、建て替えもしくは耐震改修を、所有者に迫ってきますが、現在の借地借家法のもとでは、所有者だけの努力で建て替えや大規模改修が進められない現状があることにちゃんと目を向けてほしいものです。
なぜ、これだけ多くのビルが、耐震基準を満たせないままの状態で運営されているかについて、実情を説明します。
このページだけは、国や都の役人や代議士の先生にも見てもらいたいです。
ビルオーナーだけでは、どうしようもない現状があり、そのなかでも何とかしようともがいているビルオーナーの話です。
今回報道にあったような巨大ビルだけでなく、個人投資家が持つような雑居ビルや一棟アパートでもまったく同じ課題を抱えています。
この記事がきっかけとなり、古い建物を持っているオーナーが、10年後の建て替えを見据えて今から準備していく切っ掛けになればと思います。
耐用年数より全然もつけど
実際の建物は、法定耐用年数を過ぎても法律違反にもなりませんし、急に崩れることもありません。
全然、いままで通り使えてしまいます。
ただ、大きな自然災害の前では、どんな被災を受けるかわかりません。
前出のような大地震が起きれば、最悪、倒壊だって起こりうるでしょう。
古いビルやアパートの所有者なら、どんなオーナーだって、耐震補強か建て替えをしたいと本心から思っているでしょう。
でも、なかなか実現できない障害があるのです。
それは、
耐震補強や建て替えが困難な理由
建て替えはもちろんですが、耐震補強も一度すべての入居者やテナントに退出してもらわないと、できないと考えるべきです。
2011年のニュージーランド地震で倒壊したCTVビルでは、何人もの日本人留学生が犠牲になり、今でも記憶に残っている人も多いと思いますが、このビルが倒壊した大きな原因の一つが、建物の一部のみに耐震壁があったことではないかと言われています。
耐震補強を建物一部だけに施工することで、耐震補強されていない面に地震の力が集中して、倒壊に繋がったと考えられるのです。
複数のテナントや入居者がいる建物の場合、空きが出たところを耐震補強していくという手法は、NZ地震の例からも危険極まりない方法というのがわかります。
一度、全入居者、全テナントに退去していただく必要があるのです。
ところが、これが難しいんです。
テナント退去に立ちはだかる借地借家法の壁
借地借家法の骨子は、戦時中に形作られました。
軍の命令により招集された兵士や一家の大黒柱を兵隊に取られた留守家族など、経済的弱者を守るために借り手の権利が強く認められた法律です。
あまりにも借り手有利の法律のため、一度賃貸に出すと、所有権を手放したかのような状態になります。
現在では、当然のことながら戦時中とは状況が変わり、借り手が弱者とは言い切れないケースも多々あります。
顧問弁護士を何人も持つ企業がテナントして借り手になることも普通にあります。
状況の変化と、借り手と貸し手の権利の不均衡是正の目的で、貸し手の権利についてもある程度配慮した新しい借地借家法が1991年に施工されました。
新しい借地借家法の目玉は、
定期借家権です。
これは期限を定めて、その期限が来たら借り手は、物件を必ず明け渡さなくてはなりません。
この定期借家契約であれば、一度貸したら、所有権の放棄とはなりません。
必ず帰ってきますので。
でも、これ骨抜きなんです。
旧法で契約しているものについては、引き続き旧法が効力を持ち続けるのです。
しかも、これから新たに旧法で契約することも可能なままなんです。
入居者やテナントからしてみれば、期限が来た出なければいけない新法よりも、気にいったらずっと居続けられる旧法での契約のほうが魅力的ですので、新法で契約しようとすると、なかなか希望者が見つからず、空き家のまま過ごす期間が長くなります。
そのため超人気物件以外は、いまだに旧法で賃貸借契約を結ぶのが普通です。
旧法では、正当事由なく入居者やテナントを退去させることを認めていません。
老朽化のための建て替えは、正当事由としては認められていないのです。
どうしても建て替えが必要なひっ迫した状況にあるときは、立ち退き料を借り手に渡して退去してもらうのが、現状では一般的です。
問題はその金額です。
アパートの入居者などは、引っ越し費用と次のところに入るための礼金を支払うことで納得してもらえることも多いですが、
ご商売されていてしかも不動産賃貸に詳しい人だと、キッチリ立ち退き料を請求してきます。
繁華街のビルの中間階の小さな店でも、家賃何十年分に相当する立退料のやり取りがされているとよく聞きます。
その金額は、小さな店でも億を超えることもあります。
こうならないために、何年も前から、いつでも建て替えできるように、準備を進めておくことが大事なんです。
老朽化ビルの建て替えに向けた下準備
入居者やテナントとの契約をすべて、定期借家権に変更する必要があります。
また契約終了日をできるだけ合わせていくようにしましょう。
でも、ただじゃ定期借家への切り替えは進みません。
特にご商売をやられているテナントは、交渉上手ですので、手ごわいです。
オーナーが打てる手としては、
- ・再契約を前提としていると伝える
- ・期限までの家賃を安くする
- ・保証金や敷金を一部戻す。
- ・フリーレント期間を設ける。
など、とにかく借り手の利益になることを並べて粘り強く交渉していくことが必要です。
交渉のタイミングとしては、更新のときが一般的です。
「このままの契約だと条件はこうですが、定期借家に切り替えていただければ、、、」という感じで、普通借家契約の条件と定期借家契約の条件を2つ出して比較してもらうのがいいでしょう。
更新までまだ期間がある場合は、更新時にこだわらなくても大丈夫です。
相談があると言って打合せの機会をとり、定期借家にしたい旨、定期借家にしてくれれば条件面で優遇する旨を伝えればよいでしょう。
交渉は誰がやるかというと、
オーナーご自身でもいいし、普段管理を頼んでいる不動産屋を通してもいいと思います。
通常業務として、追加料金などなしにやってくれるとことが多いです。
ただし簡単に入居者との話がまとまるかどうか、タイミングや担当者の力量によってマチマチです。
いきなりすんなり行くような話ではないので、数年かかるかもしれないと考えておいたほうがいいです。
今はダメと言われても、さまざまな状況は変化していきますので、例えば、テナントのご商売が厳しい局面で、保証金を半分返却する条件で、定期借家契約に変更してもらったなどの話も聞きます。
とにかく粘り強く、事あるごとに定期借家への変更をお願いしていきましょう。
日本国に望むこと
とにかく現在の借地借家法のもとでは、ビルオーナーの努力だけでは、建て替えすることは非常に難しいです。
だから繁華街にある大規模ビルでさえ、251棟も倒壊の危険性をはらんだままなんです。
建て替えに向けた上述した努力は誰にでもできるものではなく、かなり問題意識を持って積極的に賃貸業に取り組んでいる一部の大家しか実践できないと思いますし、それでもテナントが了承しないことも多いと思います。
いつ大きな地震が起きるとも限らない現在、ビルオーナーだけに大規模改修や建て替えを任せていてもラチがあきません。
まして罰則規定を作るなどは言語道断。
補助金を出すよりも、借地借家法を借り手と貸し手に対して公平なものとすべきです。
とはいえ、1991年に新しい借地借家法が施行された際も、骨抜きにされたことからみて、法律を公平な状態に戻すこともこれまた大変な困難なのでしょう。
でしたら、せめて、裁判で、
「老朽化による建て替え時には、立ち退き料なしで認める」という判決を出し、
借り手、貸し手とも公平な判例をどんどん作っていくべきだと思います。
「過去の判例に逆らった判決は出せるわけないじゃん」と思っている人もいると思いますが、状況が違うのですから、判決が変わるのは当然でしょう。
特に地震リスクの増大。
このままでは東京はそう遠くない将来訪れるかもしれない巨大地震に対して、あまりにも無防備です。
251棟に倒壊の危険性があるというのは、かなり大型のビルやマンションに対しての調査の結果です。
中小のビルや一軒家も含めれば、その数は計り知れません。
多くの地震学者が数十年のうちに、巨大地震が来ると言っている現在は、あきらかに過去の地震リスクをそれほど考慮しなくてよかった時代とは異なります。
このような状況であれば、テナントの個人的な利益よりも、町全体の安全性が優先される判決が出てもおかしくないでしょう。いや町を、人の命を守るためにぜひそのような勇気ある判決が待望されているのです。
判例は、法律とほぼ同じ意味があるので、「老朽化による建て替えは、立ち退き料なし」という判例が増えれば、借地借家法が公平になったのと同じ効果があります。
このような判例がたまれば、
当然、古いビルの家賃は落ちることでしょう。
耐震基準を満たしたビルを新築すれば、また家賃も高くできるとなれば、建て替えの経済的な意義もあがるので、多くの古い建物のオーナーが建て替えに向けて本格的に動くことになると思います。
このタイミングで、各種補助金や建て替え減税などの後押しがあれば、老朽化した東京がイッキに蘇る可能性は十分あります。
役人や代議士先生の英知に期待しましょう!